『ガラスの棺』 ※チェロキー妄想話

 静かな空間。
 薄暗い部屋。
 その中に、私はいた――

 


 生きていること。
 それは、私にとって、とてもつらいものだった。
 愛するものなど、この世には既になく。
 ただただ、祈るしかなかった――どうか、この苦しみから、解き放たれますように――

 ある日、思った。
 このまま生き続けるくらいなら、いっそ閉じこもってしまおう、と。
 そう。
 私のいる場所は、自ら作り出した、『ガラスの棺』なのだ。

 もう何も感じなくていい。そんな場所。
 そこで眠ってしまおう……苦しみを感じない、静謐な空間で。


「それで、本当にいいの?」


 不意に、声がした。

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 ガラスの向こう側が明るい。……炎?
 近寄ると、そこには『私』がいた。
 太陽の女王が着ていたと伝えられる、『神炎のドレス』を身にまとい、私をまっすぐ見据える。

「それでいいの? あなたには、まだまだやるべきことがあるはずよ」

 やるべきこと……?
 眩しさに目を逸らした私に、『私』は続ける。

「あなたは、ギルドを支える役目がある。
 あなたには、そのギルドメンバーからの愛と信頼を受け取る価値がある。
 あなたは……逃げているだけだわ」

 逃げている……?

「すべてを放棄して、自分の殻に閉じこもったところで、なにも解決しやしない。
 外の世界に、何が残っている? よく考えて」

 ――残っているもの――

 大切な、仲間。
 そして……いつもそばにいてくれている……ブブリのゲンゾー……

「そう。
 それだけ、と思わないで。とても大切なものよ。
 それだけで、あなたには生きる『理由』も『意味』もあるのだから」

『私』はガラス越しにこちらに向かって、微笑んだ。

「――戻っておいで。
 もうひとりの『私』」

 ガラスの棺が溶けて、炎に包まれた。

 

「――チェロキー!」

 目を開けると、ゲンゾーが瞳を潤ませて、私を見ていた。

「ゲンゾー……?」

 声をかけると、ゲンゾーは目を擦り、「おかえり」と私に言った。

「……ただいま」

 自室の鏡には、神炎のドレスを着た、私の姿。
 そう……自分の殻にこもっている暇はない。
 私は私のために。
 そして。

「……チェロキー?」

 ゲンゾーの頭を軽く撫でる。
 くすぐったそうにする、ゲンゾー。

「なんか、雰囲気変わったね、チェロキー。
 前よりもっと、ずっといい表情をしているよ」

 ゲンゾーは私の内面をよく見ているのかもしれない。
 そんなブブリに巡り会えたことも、感謝すべきことなのだろう。

「さあ、朝になるよ。
 パーラシアの夜明けだ!」

 これから、『チェロキー』の新たな日々が始まる――

 

 

END