『太陽の女王』

昔々、あるところにとても貧しい少女がおりました。

その少女の燃えるように赤い瞳、口から覗く尖った歯はまるで悪魔のようで、周りにいる者を不幸にするとされ、みんなから避けられ、友達もおらず寂しい毎日を過ごしました。

 幼くして両親を亡くし、自分を育ててくれた大好きな祖父までも、モンスターに襲われ失ってしまったのです。
祖父を守れなかった自分の弱さを責めた娘は、その日よりハンターになる決意をしました。

 

やがて娘は成長し、冷めきった心は氷のように冷たく、荒んだ心を何かにぶつけるように荒々しくモンスターを狩る毎日…。
唯一の友達であり、狩りのお供のブブリ、ゲンゾーはそんな彼女の心の闇をなんとか救ってあげたいと思いつつも、何も出来ないでいました。

 

ある日狩りの途中、森の奥深くに迷い込んだ二人は何かに誘われるように歩き進んで行くと、不思議な神殿を見つけ、娘は恐れることなく足を踏み入れました。
途端に周りが暖かい空気に変わり、奥の方から時折熱風が吹いてくるようです。
娘はふと、昔祖父に言い聞かされた話を思い出しました。
そう、ここは太古に滅びた『太陽の神殿』だったのです。

 

娘は好奇心のままに、熱い風の吹く、奥へ奥へと突き進んで行きました。
ゲンゾーは「やめた方がいい」と止めるものの、娘の言い出したら聞かない性格はよく知っているのでため息をもらしつつも渋々付いていきました。

 

やがて赤い宝石が散りばめられた、大きな扉の前に辿り着きました。
扉は少し開いており、どうやらここから熱風がもれているようです。

何の躊躇いもなく勢いよく扉を開く娘…
広い部屋の中のあちらこちらに、もう誰もいないはずの神殿なのに燃え続ける松明が飾られていました。
女王の椅子と思われるものが奥にあり、そこに鎮座していたのはキラキラと輝く黄金の冠。

 

娘は何かに導かれるように、ゆっくりと女王の椅子に歩み寄りました。
熱気でゆらゆらと輝く黄金の冠に、思わず娘は手を伸ばす…
すかさずゲンゾーが何かを叫んでいましたが、もう娘の耳には届いていません。

冠に触れた時、娘の体は炎に包まれましたが、それに気付かぬまま、手にした冠を頭にゆっくりと乗せました。

 

瞬間、娘を包む炎は激しくなり娘の服がみるみる変化していきます。
やがて燃え盛る炎が鎮まり、何事もなかったかのように振り返り、ゲンゾーの方を見てニッコリと微笑み…

 

「似合う?」

 

と聞きました。
ゲンゾーは大きく開いた口のまま、こっくりと頷きました。

頭に乗せた光り輝く冠、火の粉が舞う神炎のドレスを身にまとうその姿はまるで太陽の女王のよう…
そして何より、心から微笑んだ事のない彼女の優しい笑顔に、ゲンゾーは驚いて何も言えなくなってしまったのです。
程なくしてゲンゾーはこう言いました。

 

「きっと太陽の女王様が、チェロキーの凍った心を溶かしたんだね!」

 

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二人は家に帰り、昔祖父が見せてくれた太陽の神殿にまつわる本を読みあさりました。
色々と調べていくうち、自分が太陽族の末裔にあたる種族だった事が分かりました。

太陽の女王の想いは何百年の時を越え、チェロキーに受け継がれたのです。

 

やがて温かな心を取り戻した娘はハンターとしても人としても、強くたくましくなってゆき、たくさんの仲間と出会い、そしてギルドの中心となり、いつまでもいつまでも、みんなを照らし続けました。

 

そう、まるで太陽のように。

 

END